Masuk「さて、アステリオンが帰ってくる前に、お着替えタイムといこうか?」
カシューがまたベルを鳴らすと、リア達メイド部隊が部屋にやって来た。うわぁと露骨に嫌な顔をするカリナを尻目に、その場に簡易用の着替えスペースをカーテンを広げて作ると、そこに嫌がるカリナを連れ込んだ。
「またかよー!」
「さあさあ、今回の新作ですよー」
ぽいぽいと脱がされ、新しい衣装を着せられた。赤いフード付きのロングコートに下は水色のチュニック、白いヒラヒラの膝上までのスカート。水色のニーハイソックスにピンクのブーツである。
「では次回も楽しみにして下さいねー」
へろへろになって更衣スペースから出て来るのと同時に、メイド隊は帰っていった。
「ここに来る度にこれが待っているんじゃないだろうな?」
「あはは、今回のもよく似合ってるよ。彼女達も創作意欲が湧いて楽しんでるんじゃないかな?」
「私は着せ替え人形じゃないんだぞ」
ぶつぶつと文句を垂れながら、部屋に用意してあった姿見で自分の姿を見る。至る所にリボンがあしらわれていてまるで魔法少女である。まあ似合わないこともないかとカリナは思った。メイド達が楽しそうならそれはそれでいいのかもしれないと思い直すことにした。
「どう? 気に入ったんじゃないの?」
「まあ、自分でこんなのを選んだりはしないから新鮮ではあるかもな。それにメイド達がこれで楽しみができているのなら、そこまで邪険にすることもないだろうとは思ってる」
「人間ができてるねえ」
「いや、そこまでの結論にはならんやろ」
二人で会話をしていると、隣の部屋からエクリアが入って来た。いつもながら見た目だけは完璧な美人である。
「よお、来てたのか。こっちは東の地の魔物掃討が大方終わったところだぜ、ってまた可愛らしい衣装を着せられたもんだなー」
「うるさいぞ。こいつとメイドの趣味に付き合ってやってるだけだからな。自発的に要求してないから」
「まあまあ、似合ってるんだからいいじゃんか。俺が着たら身長のせいもあってかなり痛々しいからな。可愛い衣装が着れるってのはそう考えるといいものだと思うぜ」
エクリアの身長は170以上ある。今のカリナが150㎝程度なので、並ぶと身長差が相当大きい。
「さすが根っからのネカマは言うことが違う。だったらキャラメイクのときにもっと小柄にすれば良かっただろうに」
「うーん、やっぱ高身長で大人な女性に憧れるじゃん。だからこうなったんだよ。でも小さい女の子も悪くないな……」
「犯罪者臭いよ、今の発言」
カシューがツッコミを入れる。昔ながらの友人PCと過ごす時間は感覚を現実に戻してくれる貴重な時間である。今のこの閉じ込められたゲーム世界では、現実にいた頃の話を彼ら以外とすることはできない。NPCはこの世界の住人であり。この世界を現実として生きている。それに最早NPCというよりそれぞれの人生を生きる独立した存在なのである。
彼らと話をして過ごすことも大事な時間ではあるが、カリナ達にとってはリアルの友人として過ごすことができる、この関係が心地良いものであった。
「で、明日から聖光国に向かうんだって?」
「ああ、サティアの痕跡があるかもしれないからな。結構な長旅になるとは思うけど」
「電車でもあればねぇ、気楽に旅ができるんだけど。さすがにそこまでの技術的発展は望めないよね」
「カシューが作ればいいんじゃないか?」
「そうだな、戦車とかいう名のついた妙な自動車は作った訳だし」
カリナとエクリアがそう言ってカシューを見た。
「うーん、この国の影響下にある地域一帯になら不可能じゃないかもしれないけど、さすがに大陸全土に線路を引くのは難しいよ。一応近場の街までの電車を作る計画はあるんだけどね。今は職人達の努力次第ってとこかな」
「すごいな、冗談で言ったのに。もうそこまで計画が練られていたとは……」
「俺も職人達が何かしらの計画を話してるのを耳にしたことはあるけど、まさか本当に実行に移っていたなんてなあ」
「まあね、でも他国にまで鉄道を繋げるのは大変だよ。その国との利害関係とかもあるし、あんまり現実的じゃないんだよねぇ……大陸全土を繋げるとなると人手も足りないからね」
カシューの頭の中には既にその構想があるのだろう。恐らく他国との交渉も始めているのだろうと二人は思った。
そうして話をしていると、ドアがノックされ、アステリオンが戻って来た。手には小型のイヤホンの様な物が乗せられている。
「完成しました。小さく削った魔法石を触媒にして、使用者の魔力を消費することで遠隔通信が可能になります」
その二つのイヤホンを受け取り、カシューは一つを自分の左耳に着けた。
「よくやったアステリオン。これで遠征中のカリナと連絡手段が確保できる。行方不明の幹部の探索に大いに役立つ」
「いえ、上手くいって良かったです。それでは何か不具合が発生したらいつでも言いつけ下さい。失礼致します」
一礼するとアステリオンは退室して行った。
「良い部下を持ったものだな」
「そうだな、あいつは優秀だぜ。うちのレミリアももうちょい実力が付けばいいんだけどなー」
頭の後ろで手を組んで、エクリアがそんなことを言った。
「そうか? 以前一緒に討伐に行ったけど、充分な戦力だったと思うぞ」
先日西に悪魔と魔物の討伐に行ったことを思い出して、カリナはそう言った。
「まあ、及第点だな。もうちょい、何て言うのかなあ、破滅的な大魔法が使えるようになってくれたらなぁ」
それでは災害級のエクリアが二人に増えるだけじゃないかとカリナは思ったが、口には出さないでおいた。
「さて、盛り上がってるところ悪いけど、カリナ、これを左耳に着けてみてくれるかい? フックを引っかけるとしっかり固定されるから」
手渡されたイヤホンを左耳に装着する。
「魔力を通して何か喋ってみてくれるかい? マイクの役割も兼ねてるから、小さな声でも聞こえるはずだよ」
「ああ、やってみよう」
魔力を左耳に集中させる。そして「もしもし」と小声で呟くと、それがカシューのイヤホンに伝わった。
「もしもし、だね」
「おお、かなりの小声で言ったのにちゃんと聞こえるんだな」
「うん、感度もバッチリだね。これで僕から通信するときは僕が魔力を込めるだけで済む。常に会話が筒抜けになる訳じゃないから、必要な時だけ通信してくれればいいよ」
それをソファーで見ていたエクリアは「ほー」と声を出した。
「すごいな、カリナが喋ったのは俺には聞こえなかったってのに。でもこれなら何処に行っても連絡が可能になるだろうな」
「うーん、だといいんだけどね。天候や高度などによっては通信が乱れる可能性もないとは限らないから。でもまあこれで何かあった時はいつでも連絡が可能になるよ」
ふふん、と胸を張るカシュー。友人ながらいつもその探求心には驚かされる。今回も遠隔通信機をこの中世ファンタジー世界に作ってしまった。心強い友がいることを嬉しく思う。
「まあ、何にせよこれで何かに行き詰まった時にはカシューの知恵が借りられるということだな。大事に使わせて貰う」
「あはは、他国の動向を知るのも王の役目だからね。カリナには体のいいスパイになってもらえると助かるよ」
「あーあ、本音はそれか。全く、余計な一言が玉に瑕だな」
エクリアがやれやれと溜め息を吐いた。カリナも感心した自分の感情を返して欲しいと感じていた。
「いやいや、変な意味はないからね。また悪魔の襲来があるかもしれない現状、他国の情報を知っておくに越したことはないってことだよ?」
「まあ、そういうことにしておく。とりあえず、聖光国に着いたら連絡は入れるようにするよ」
「そうだね、よろしく頼むよ。さて、もう夜だし夕飯にでもするかい?」
「いや、今日はルナフレアに夕飯には戻ると伝えてあるから遠慮しとくよ。また明日出発前にな。お休み」
小型通信機が完成したところで、この会はお開きとなった。カリナはルナフレアの夕食を楽しみに自室へと帰って行った。
◆◆◆ カードキーで自室の扉を開ける。この技術もこの世界では最先端のものだろう。カシューは本当にこういうものを発明するのが上手いのだなと、カリナは感心した。実際に作成しているのは職人達なのだろうが、実現性がなければ創ることはできない。改めてエデンの科学力に感嘆せざるを得ないとカリナは思った。自室の中に入ってルナフレアに「ただいま」と声をかけると、奥からルナフレアがパタパタと走って来て出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、カリナ様。陛下に夕食に誘われたのではありませんか?」
「ああ、でも今日は君との約束があるからと断って来たよ。もう準備はできてるのか?」
「もう少しで完成です。ですが、その前にカリナ様と入浴をしなければいけませんから。って、あら、また新しい衣装ですか?」
「また一緒に入るのか? まあいいけど、これか? リア達メイド隊の新作だとさ。あそこに行く度にフリフリの衣装が増えていくんだよな」
「よく似合っていますよ。さすがリアさん達、やりますね。私も何か新しく作ってみようかしら?」
「無理はしなくていいよ。私の世話をしてくれているだけで十分だからね。さて、じゃあ風呂に入ってこようかな」
浴場に向かうカリナをルナフレアが追いかける。そしてカリナの衣装をてきぱきと脱がしてから、綺麗に折り畳み、カリナが今日着ていた衣装を受け取ると、それを洗濯籠に入れた。
「いつも済まないな」
「いいえ、これが私のお勤めですから。カリナ様にお仕えできて幸せですよ」
素直にそんなことを言われると照れてしまう。そんな顔を見られないようにして、全裸になったカリナは浴場へと入って行った。メイド服を脱いだルナフレアもカリナを洗うために後を追った。
「なあ、毎回一緒に風呂に入るのか?」
「嫌ですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……」
「今は女の子なのですから、気になさらないで下さい。それにカリナ様をお綺麗にして差し上げることができるので、お風呂は私にとっては幸せな時間なのですよ」
そこまで言われては仕方がない。それに今は自分も女性である。変な気を起こすことなどまずない。そう考えると、ルナフレアの幸せを優先してあげることの方が大切なように思えた。
長い髪の毛とくせ毛のツインテールを丁寧に洗い、スポンジで全身も隈なく磨いてくれるルナフレアの嬉しそうな顔を見ると、もう断ることはできないだろうなとカリナは思うのだった。
のんびりと二人で湯船に浸かる。一日の疲れが癒されていくような心地よさを感じた。
◆◆◆ 「今日は明日からのエネルギーにして頂くために肉料理を多めにしておきました。たくさん食べて下さいね」「おお、美味そうだな」
ルナフレアの心遣いが身に染みる。上品な味付けで作られた料理を楽しみながら、カシューと話したことや今日の出来事について会話する。何気ないひと時だが、それが二人にはとても美しいものに感じられた。
もし結婚とかしたら毎日がこんな感じなのだろうか? まだそんな経験のないカリナはそんなことを思ったが、ルナフレアは側付きであってそのように見てはいけない存在である。だがルナフレアにとっては、妖精の加護を与えた伴侶のような存在がカリナなのである。
妖精は老いることなく悠久の時を生きる。今の関係はカリナがPCで、歳老いることがないからこそ成り立つものであろう。今のこの世界が続く限りはこの幸せを大切にしていこうとカリナは考えることにした。
夕食後、リラックスして過ごしてから就寝する時間になると、ルナフレアがまたカリナの寝室にやって来た。カリナは何も言わず彼女をベッドに招き、一緒に横になって天井を見上げた。
「明日からまた独りになってしまいます」
その言葉に、長い間孤独にさせてしまった自分の胸が苦しくなる。
「大丈夫だよ。ちゃんと帰って来るから。もう君を独りぼっちには絶対にしないから」
「はい、信じています……」
二人は手を繋いで目を閉じた。明日はいよいよ聖光国に向けて出発である。それまでは彼女の思いに応えようと思うカリナだった。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一
世界樹の森を後にしたカリナは、ペガサスで休憩をはさみながら北上を続けた。 日が傾き、空が茜色から群青色へと変わる頃、眼下に霧に包まれた幻想的な街並みが見えてきた。目的の街、リシオノールだ。 街から少し離れた街道沿いにペガサスを降ろし、労いの言葉と共に送還する。そこからは隊員を連れて徒歩で南門へと向かった。 リシオノールは「霧の街」の異名を持つ。五大国の一つである陰陽国ヨルシカの和風の文化圏に近い影響を受けており、夕刻になると立ち込める白い霧の中に、瓦屋根や木造の格子戸といった和の風情を感じさせる建物が浮かび上がる。 石畳の道もしっとりと濡れ、軒先に吊るされた提灯の淡い光が、幻
ヒースの部屋を出てロビーに戻ると、そこは殺気立った空気に包まれていた。 負傷している者、装備を点検して飛び出していく者。怒号と悲鳴が飛び交う中、数人の冒険者が地図を囲んで深刻な顔で話し合っているのが耳に入った。「南西の防衛線が危ない! 急造の砦を築いて凌いでいるが、魔物の数が多すぎる!」 「正規軍の騎士団も限界だ。このままじゃザラーまで雪崩れ込んでくるぞ!」 彼らの会話を聞いたカリナは、迷わず彼らの元へと歩み寄った。「その南西の砦、私が加勢に行こう」 凛とした声に、冒険者達が振り返る。だが、彼らの目に映ったのは、フリルたっぷりの緑のドレスコートを着た、深窓の令嬢のような美少女と、二
「そろそろ彼らは遺跡の悪魔と遭遇した頃でしょうか?」 ルミナス聖光国教会。女神像の前で祈りを捧げる一人のシスターが、遠い戦場に想いを馳せて呟いた。「そうかもしれぬな。先程から街を包む空気が重く淀んでいる。……お迷いですか、サティア様」 問いかけに答えたのは、神父長のマシューだ。長い髭を蓄えた威厳ある老人だが、彼はまるで母に接するかのように、変わらぬ敬意を込めて「様」をつける。100年もの間、姿を変えずにこの街を見守り続けてきたPC、サティア。老いることのない奇跡の存在。この世界の住人には、彼女は生ける伝説として映っていた。「ええ……。カリナさんは強い人です。私などがいなくても、きっと
精霊の塔・最上階。 石床は砕け、空気は灼け、カリナの呼吸は荒くなっていた。剣を振るうたび、腕に重くのしかかる衝撃。魔法剣士として精霊と呼吸を合わせることができない純粋な剣技だけでは、それを振るう悪魔の膂力の前では分が悪すぎる。「くっ、はぁっ……!」 アグノス・レギウスの大剣が、横薙ぎに唸る。受け止めきれず、カリナは後退する。衝撃を殺しきれず、床に深い溝が刻まれる。一撃一撃が、確実にカリナの命を削りに来ていた。「終わりだ、召喚士カリナ。その剣では、ここまでだ」 アグノスがトドメの構えに入る。もはや回避も防御も間に合わない距離。絶望的な質量が頭上から迫る。 その瞬間―― カラ







